
美容外科における麻酔の基礎知識|鎮静・鎮痛・全身麻酔の違いとリスク管理を外科専門医が解説
本コラムでは、美容外科で用いられる麻酔について詳しく解説いたします。やや専門的な内容を含むため、研修医や若手医師の方の学習はもちろん、「自分にどのような麻酔が使われているのか知りたい」という患者様にも参考になる内容です。

監修:MJクリニック札幌院長 村山健二医師
外科専門医/医学博士/クマ治療症例数2000件以上/医師歴15年以上/元湘南美容クリニック院長歴任
麻酔を構成する3つの要素とは
麻酔は単一の作用ではなく、「鎮痛」「鎮静」「筋弛緩」という3つの要素の組み合わせによって成り立っています。
『鎮痛』は痛みを取り除く役割を担い、局所麻酔、ブロック麻酔、点滴、硬膜外麻酔・脊椎麻酔などで行うものになります。意識レベルを下げて不安や恐怖を軽減する『鎮静』は点滴や吸入麻酔で行います。筋肉の動きを抑える『筋弛緩薬』は点滴で行います。
薬品名を羅列させていただくと、
『鎮痛』には、キシロカインのような局所麻酔薬に加え、フェンタニルやレミフェンタニルといった麻薬系鎮痛薬、さらに非麻薬系のロピオンやアセリオなども用いられます。
『鎮静』では点滴薬のプロポフォールやミダゾラム(ドルミカム)、デクスメデトミジン(プレセデックス)、吸入麻酔薬はデスフルラン、セボフルラン、笑気などがあります。
『筋弛緩薬』はロクロニウム(エスラックス)、スキサメトニウムなどがあります。
美容外科で使われる麻酔の種類
「鎮痛」「鎮静」「筋弛緩」の3要素すべてを行うのが全身麻酔です。筋弛緩薬を用いるため自発呼吸がなくなるため、挿管して人工呼吸器を用い、麻酔科医による全身管理のもとで施術を行う方法となります。
「鎮痛」「鎮静」のみを行う方法が美容外科で一般的に行われる麻酔方法で、俗称でさまざまな呼び方がされています。中等度鎮静の状態をいずれかの方法で維持し、同時にいずれかの方法で鎮痛も行う方法です。
「鎮痛」のみを行う方法の場合、緊張を和らげるために笑気麻酔を併用することが美容外科・美容皮膚科ではよく行われています。
全身麻酔の場合、術前に呼吸機能、心機能、肝機能、腎機能などを詳細に調べる必要があります。これは、全身麻酔ではさまざまな薬剤を投与することや、薬や機械によって術中の身体の状態をコントロールするため、あらかじめ詳細な身体情報を把握する必要があるためです。
美容外科施術において、体動がない全身麻酔が安全・安心であるという考えもありますが、薬剤の種類や使用量が増えることで身体への負担が大きくなる側面があるのも事実です。
続いて、「鎮痛」と「鎮静」を用いる麻酔方法についてです。この方法が美容外科手術でもっとも一般的に行われている麻酔方法になります。
鎮静に用いる点滴麻酔薬は、プロポフォールまたはミダゾラムが一般的です。プロポフォールは半減期が血中濃度として約2.6分と非常に短時間であるため、コントロールしやすく好んで用いられます。一方、ミダゾラムは大豆アレルギーなどがある方に使用するケースが多く、半減期は約2時間と長いものの、拮抗薬(フルマゼニル)が存在するため安全に鎮静を行うことが可能です。
吸入麻酔薬(デスフルラン、セボフルラン)は麻酔器が必要となるため、ほとんどの美容クリニックでは鎮静目的で用いられることはありません。
笑気麻酔についてですが、埋没二重や美容皮膚科の処置で併用されることが多い方法です。少し専門的な話になりますが、「鎮静」に分類されるものの、笑気はMAC(最小肺胞濃度)が100%を超えており、単独では十分な鎮静効果が得られず、眠る状態に至ることは稀です。しかし、適度なリラックス効果が得られることや、30分ほどで体外へ排泄されることから、美容領域では好んで用いられています。
実際の麻酔の流れ
実際のよくある麻酔の流れの一例を示します。例えば裏ハムラで施術を行う場合ですと
手術開始のタイミングでプロポフォール(体重換算0.05mL/kg/10秒以下で就眠するまで、おおよそ0.1mL/kg以下で中等度鎮静がえられる)とケタラール(1kg当り2mg以下)を投与し、ケタラールによる鎮痛効果が発揮されている間に眼窩下神経ブロックと、手術部位に局所麻酔を行い、その後は持続でプロポフォール(0.4~1.0mL/kg/時)を投与して手術をおこないます。
術中に痛みによる体動があった場合は適宜局所麻酔を追加したり、目が覚めた状態になった場合にはプロポフォールを追加で投与して快適に施術を受けていただけるように調整します。
鎮静麻酔のリスクと重要な管理項目
鎮静のリスクに関して、主なものとして呼吸抑制と血圧低下があります。
呼吸抑制がおこり低酸素状態になると、非可逆的な脳のダメージを生じる可能性があります。サチュレーションモニター(パルスオキシメーター)を指先などに装着し、皮膚を通して動脈血中の酸素飽和度(SpO2)を測定しながら施術を行いますが、麻酔深度が深くなるとその数値は低下します。90%を下回ると呼吸不全の状態となり、身体が低酸素によるダメージを受け始めます。
酸素状態が低下した際に、ただちに適切な対応を行えば大きな問題になることはありませんが、麻酔経験が乏しかったり、危機管理意識が不十分な状態で施術が行われた場合、低酸素状態が長時間持続することで身体にダメージが及び、後遺症が残る可能性があります。
また、血圧の低下についても、組織への血流を十分に保つために一定以上の数値で管理する必要があります。一般的に平均血圧は65mmHg以上を維持することが重要とされており、これを下回った場合には輸液や鎮静薬の調整を行い、状況によっては昇圧剤を使用して適切にコントロールする必要があります。
SpO2が90%を下回った場合の対応(医師向け)
SpO2が90%を下回った場合には、ただちに手術を中断し、対応する必要があります。美容外科施術で想定される酸素化低下の原因として最も多いのは、鎮静が深くなったことに関連するものです。
その際に行うべき対応は、鎮静を終了することと、酸素化を改善することです。
具体的には、プロポフォールの投与を中止し、点滴ルート内のプロポフォールが血管内に流入しないよう輸液の滴下も停止します。ミダゾラムを使用している場合には拮抗薬を投与します。同時に、酸素投与量を増やし、下顎挙上を行い気道を確保します。
さらに、胸郭の上下運動を用手で行い換気を補助します。おおよそ5秒に1回程度の頻度で、肋骨が折れない範囲で胸郭を圧迫することで、死腔容量(約150cc)を超える換気が得られれば、肺胞内の空気も循環し、SpO2は徐々に上昇してきます。この方法は術野を清潔に保ったまま行える点も利点です。
それでも改善が見られない場合には、速やかに術野の清潔を解除し、バッグバルブマスク(アンビューバッグ)による換気を開始する必要があります。下顎挙上でも舌根沈下が改善しない場合には十分な換気が得られないため、エアウェイの挿入を行います。それでも換気が困難でSpO2が上昇しない場合には、気管挿管を行う必要があります。
また、喀痰による気道閉塞が原因となっている可能性もあるため、wheezeを聴取していた場合には清潔野が解除されたタイミングで速やかに喀痰吸引を行います。吸引刺激によって呼吸が再開する可能性もあり有効な手段ですが、嘔吐反射が誘発されて誤嚥性肺炎に陥らないように注意も必要です。
これらの対応を行っても改善が見られない場合には、鎮静に関連しない原因も考慮し、ただちに救急要請を行い低酸素状態の精査・治療へ移行する必要があります。
まとめ|麻酔管理で医師の質がわかる
麻酔は単なる補助ではなく、手術の安全性を支える重要な要素です。適切な知識と経験を持つ医師であれば、本記事で解説した内容は基本として身についているはずです。
患者様にとっては、「麻酔についてどこまで説明できるか」という点が、医師選びの一つの判断材料になります。安心して施術を受けるためにも、ぜひ参考にしていただければと思います。
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